「安心と希望の医療確保ビジョン」第6回会議に出席

平成20年4月8日(火)、厚生労働省省議室にて開催されました「安心と希望の医療確保ビジョン」第6回会議に出席して参りました。
 この会議は、厚労省の小野太一氏(医政局、ビジョン担当)によると、舛添厚生労働大臣の発案で設けられたもので、問題意識としては、「医師不足問題をはじめとした、医療を巡る様々な課題について、局面局面での対策は講じてはいるものの、医療の将来を見据えたグランドデザインのようなものが存在しない。こうした中で、医療政策に関する将来像とそれへの道筋を、医療現場や国民の皆様に示して参りたい。」ということだということです。そのため、今年1月7日に第1回会議を開催し、これまでに、1回の現場視察も含め5回会議を開き、議論を重ねてきたとのことで、舛添大臣の他西川京子副大臣、松波健太政務官、それに有識者アドバイザリーボードとして辻本好子・NPOささえあい医療人権センターCOML理事長、野中博・野中医院院長、矢崎義雄・国立病院機構理事長の3氏を加えた計6名の皆さんの前でプレゼンし、それを基に議論を進めていくという形式でした。
 地方における地域医療の取り組みについて、所管大臣に直接お話をし、聞いていただくという大変貴重な機会を得ましたので、その時に使用したスライドと原稿をむつ総合病院のホームページにアップし、広くご紹介致したいと思います。

 むつ総合病院は、青森県下北半島のほぼ中央に位置する、むつ市、に所在しております。県内の主要都市であります青森市・弘前市・八戸市から時間距離を相当に要する地理的条件にあります。  県内には、青森空港、三沢空港があり、新幹線も既に八戸市まで来ており、近く、青森市を通って函館まで開通する予定となっております。 しかし、それでも青森市からは、車で約2時間30分を要しますので、高速交通の恩恵に浴することが困難な地域であることには変わりありません。特に、医学部を擁する弘前大学があります弘前市へは、1日がかりの行程になります。
 一方、下北半島には、原子力発電所が立地し、むつ市には核燃料廃棄物の中間貯蔵施設も予定され、また、隣接の六ヶ所村では核燃料サイクル事業が推進されており、この地域は、日本のエネルギー政策にとってなくてはならない地域であります。
 また、「下北」は、国際海峡である「津軽海峡」に臨んでおり、むつ市には、海上自衛隊大湊基地等、国防上の拠点施設が存在しております。
 「下北」はまた、恐山のイタコ・大間のマグロなど、伝統文化や自然面でも知られておりますが、このように実際には、国全体の将来に関わる重要な地域でもあります。
 青森県の面積は約9600㎢、それに対して下北地域は約1540㎢で県全体の16.1%を占めております。一方、平成2021日現在の人口は、県全体で約1406000人であるのに対し、下北地域では約86000人で県全体の6.1%であります。
 このように、非常に大きな面積に人口が分散しており、むつ市の中心部を除いては、過疎地・へき地が多い診療圏となっております。 

下北地域における医療環境を示したものです。

 4つある病院のうち、民間病院はなく、また、診療所の大半は、むつ市の中心部に位置しており、県内の6つの医療圏のうち、唯一病床数の不足地域となっております。

 このようなことから、医療サービスは、大きく自治体に依存しており、少し重い病気や専門性が求められる病気は、全て「むつ総合病院」が担わざるを得ないのが実状であります。


過去10年間における青森県と下北圏域における出生数の推移を示したグラフですが、ご多分にもれず、年々、出生数は減少しております。


一方、現在65才以上の高齢者は、この地域の人口の23.5%であり、75才以上は、11%で、少子高齢化はますます進行しております。


青森県における分娩取り扱い機関を示したものです。この数年間で、集約化が大分すすみました。県全体として、分娩取り扱い病院は、大学を含め13カ所、開業医は20カ所しかありません。


県内における産婦人科医の年齢構成ですが、若手の産婦人科医が極端に少ない状況です。


下北地域における小児科医療機関を示したものです。下北地域ではむつ総合病院に3人の小児科医がおりますが、小児科開業医は4カ所で、全てむつ市中心部に集中しております。


もう一つ、下北圏域の医療体制の特徴として挙げられることは、全ての公立医療機関は、一部事務組合下北医療センターが開設者であるということであります。
 これは、個々の市町村の運営では、医療機関の維持が困難であり、医師不足が解消できないため、昭和44年、当時の厚生省病院管理研究所所長でありました吉田幸雄氏に県が依頼し、(翌45年に)策定されました、所謂「吉田試案」に沿って、ネットワーク化と一体運営を図ろうとしたからであります。
 しかし、現実には、
 1.医療機関の収支は、各市町村の責任とされたこと。
 2.医療スタッフや事務部門も各市町村の責任となったこと。

 3.そして、一部事務組合というのは、実際にやってみると、結局は、利害が、ともすれば相反しやすい構成市町村の全ての同意が必要な仕組みであり、人間中心の病院事業に適しているか疑問であること。
などから、上手くワークしませんでした。
 現在、総務省において公立病院改革プランの策定が進められようとしており、再編・ネットワーク化が大きなテーマですが、相当に早い段階で下北地域はこれに取り組み、結局は実質的に失敗しました。
 医師派遣元の大学側としては、それぞれの医療機関に医師を派遣するのであって、下北医療センターに派遣しているのではないということもあったかと思います。
 再編・ネットワーク化は、器を変えるだけでは成功しないという反面教師でもありました。


 青森県の医療は、様々な要因によって、平成10年以前より町村部を中心に大きく揺らぐようになりました。

 下北地域においても例外ではなく、旧むつ市に隣接していた大畑町の病院は大学からの派遣医師数が減少し、平成16年度には医師不在となる危機を迎え、県からの緊急派遣によって、何とか維持することができました。

 また、川内病院も大学には依存できないようになりました。

 大間病院も、県からの自治医大卒の医師派遣は継続されていましたが、町が確保した医師が退職し、医師数の減少と県派遣医師の過重負担という看過できない状況となりました。


 次第に危機が顕在化する中、県は、各圏域で自治体病院機能再編成を進めようとしていました。下北地域は、青森県の日本海側に位置する「西北五地域」に次いで再編計画がなされ、現在、それに沿って再編がすすめられているところであります。
 即ち、病院から診療所への転換、あるいは診療所の休廃止などであります。
 スライドは、県の方針と下北医療センターとの協調を示したものです。
 県としては、下北地域の医療において、本来手を携えて地域の医療を守るべき総合医と専門医の相互理解が欠けていることを解消すべく、むつ総合病院に自治医大卒の医師2人を派遣することや、医師の勤務環境改善のために、大間病院に県からの派遣医師を集約し、むつ総合病院と大間病院の連携を深めることに着手、さらに、それであっても、へき地の医療は守るという地域医療システムの構築に取り組むことを提案してきました。むつ総合病院としては、これに呼応し、病院の総力を挙げて取り組んでいるところであります。 


地元メディアによる当時の報道の模様です。


 ここで、むつ総合病院の概要をお示し致します。

 県内でも非常に忙しい病院とされております。


 むつ総合病院の不良債務は、18年度末で24億円を超えておりますが、現在、国・県の支援を受けながら経営改善に努力しているところであります。
 そんな厳しい状況のなか、新制度による臨床研修病院に指定されたことは大きなバネになっております。これにより研修医のための宿舎整備、積極的な医学生の実習受け入れなど教育病院としての充実を図るとともに医師確保にも積極的に取り組んでおります。
 即ち、独自に情報収集するとともに、県からの情報などにも迅速に対応、また、定年退職医師には継続して勤務して戴き、僻地医療支援等にあたって戴いております。
 このたび、診療報酬改定でメディカル・クラークへの手当がなされましたが、医師負担軽減のため、当院では以前から県単独の補助金により一定数を確保しておりました。
 また、大阪市立大学の2年次研修医の受け入れを大間病院と協力して実施していますが、これは、県の施策と呼応して実施しているものであります。 


 また、下北圏域における地域医療に関する取り組みとして、地域支援に関し、下北地域リハビリテーション広域支援センターの活動があります。これは、平成15年に県より指定を受け、以来、基礎固めをしながら事業を展開しておりますが、平成19年度は、独自に企画した「口腔ケア実技教室」を3回シリーズで2クール実施しました。 また、地域連携に関しては、「地域連携パス」の定着・普及を推進しているところです。これは、平成17年度に県主導で開始され、2年間で道筋をつけてもらった後、平成19年度からは、独自に「地域連携パス推進協議会」を立ち上げ、引き続きパスの普及に取り組んでおります。
 また、勤務医師の流出を防ぐための手だてを探るために、県医師会の協力を得て、アンケート調査を実施しました。これは、一昨年実施し、昨年まとめましたが、開業動機として、苦労が報われないとか、職場での人間関係など様々な事が述べられておりました。
 また、臨床研修病院としての充実に向け、指導医には、積極的に指導医養成講座に参加してもらうようにしております。しかし、医師の異動も激しいため、修了証を受領している医師の割合はそれほど上がりませんが、現在は、約60%です。私は、要は県内に修了者が沢山増え、やがては、どこの病院にも修了者が居る状態になればよいと考えております。

 また、今年の2月には、むつ市に於いて「死」について考えるというテーマで研修医ワークショップが開催されました。これは、青森県卒後臨床研修協議会の主催で開催されたのですが、前述したようにむつ市という交通の大変不便な所にもかかわらず、県内各地から研修医が21名も集まってきてくれ大変盛況でした。
 また、平成16年には「下北救急医療研究会」を立ち上げ、発表会や研修会あるいはAEDの普及活動など行っております。これらの活動を通じ、救急救命士など救急搬送に係わる消防署員などと医療スタッフが顔の見える関係が構築され、救急医療の面でも好影響が生まれております。
 また、平成17年には「下北医療研究会」を立ち上げ、下北地域の医療従事者全般を対象とした研修会や講演会、また市民公開講座の開催など、時には一般市民を対象としたり、場合によっては行政をも巻き込んだ勉強会であったりと、医師を対象とした医師会主催のものとは別仕立てで医療従事者の質向上に向けた取り組みをしております。
 この他、管内の医療機関や養護老人ホームなどの施設を巻き込んでの「むつ下北院内感染制御ネットワーク」も立ち上げ、連携をはかっております。
 今後も引き続き、教育病院・医育機関として、その充実に向け、努力していこうと考えております。
 そうすることが即ち、地域住民への「質の良い医療の提供」に直結するものと信じております。


 これは、むつ総合病院の基本理念と基本方針を示したものです。「製品」にとっての「命」は、「品質」だと云われますが、私は、「医療」においては「信頼」こそが「命」だと考えております。そのために、スライドにありますような5つの方針を掲げ、全職員とともにそれに向かって努力しているところであります。

 今後の当面の課題は、「病院機能評価」および「臨床研修機能評価」を受審することと考えております。



 これは最後のスライドですが、今回の「医療確保ビジョン」に関し、少し私見を述べさせて戴きたいと思います。
 まず、最近、深刻な社会問題となっております、医師不足についてですが、医師が不足している、つまり絶対数が「足りない」ということですから、あらためていうまでもなく、それを「補う」、「充足させる」ことをすればいいわけで、そのためには、医師を「造る」しか、手はないと思います。従って、これは、そもそも俄に解決できる問題ではなく、大変時間がかかることで、すくなくても10年以上はかかる問題だと考えます。
 そういう意味で、此度、医師不足問題をはじめとした医療を巡る様々な課題について、医療の将来を見据えたグランドデザインがないことから、医療政策に関する将来像とそれへの道筋を、医療現場や国民に示していくという大臣のご方針は、誠に時宜を得たものであり、希望をもてるものだと思います。
 ただ、ここで問題になるのはどういう医者を造るのか、現場ではどういう医者が求められ、必要とされているのかということがあると思います。私は、所謂「かかりつけ医」、一般医、GPの育成が、これからは必要不可欠と思っております。しかし、これは現在、医学教育、臨床教育の場では、その体制がまだまだ十分ではありません。これは、文部科学省の領域になることかも知れませんが

 一方、専門医の養成は、これまで通り、必要なことであり重要なことであることには変わりありません。
 もう一つは、疲弊しきっている医師をもっと有効に使う必要があると思います。そのためには、医師の仕事、負担をどんどん削って軽くしてやることが必要だと思います。つまり、医者が医者としてやるべきこと、本当に医者でなければできないこと、例えば、診断、治療方針の決定、高度な技術の提供など、ごく限られたことに絞るべきだと思います。そして、他の医療スタッフにこれまで医療行為とされてきたものの一部をどんどん委譲する、そのためには認定看護師や専門看護師、臨床工学技士、その他の医療技術者をもっと活用していくべきではないかと思います。
 そうするには、現行の医師法をはじめとした関連法を改正する必要が生じてきます。これには各方面から、強い抵抗もあろうかと思います。しかし、日本の医療情勢は、現在、そうしなければ、正に崩壊しかねない状況にあると思います。いみじくも、大臣が昨年暮れの記者会見で「医療体制の革命的な変革が必要だ」とおっしゃっておられたのは、正にこのことではないかと私は思っております。 また、医療の将来像のなかで、もうひとつ重要なことは「予防医療政策の強化」が挙げられると思います。最近話題の「メタボ」もそうではありますが、医療現場では、がん、心筋梗塞、脳血管障害などの予防対策が殊に重要と思っております。それには「タバコ問題」が大きく関与しております。「タバコ問題」は、様々困難な問題もあろうかと思いますが、これには、厚労省として、国として、しっかりと取り組み、強力に押し進めていただくことを期待致します。 ということで、「いのち」にもっとお金をかける、そのことを国民的なコンセンサスとしていく必要があるのではないかと思います。 以上です。
 一部事務組合下北医療センター むつ総合病院
 〒035-8601 青森県むつ市小川町一丁目2番8号 TEL0175-22-2111 FAX 0175-22-4439
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