【2010年06月07日】 タイトル: 研修医日記 vol.102
 野辺地からむつ市に向かって下北半島を北上すると、途中、右手に風力発電用の風車をいくつも見る事ができます。これらの風車は昼も夜も回り続け、電気をつくっています。この風車を見るたびに、私がその昔抱いていたささやかな野望を思い出します。

 まず、風車を建設します。風当たりのよさそうな山をみつけて、そこに風力発電用の風車を作ります。建設費はいくら位でしょうか?全然知りませんが、仮に5千万円くらいだとします。私はそんなお金を持っていないので、5千万円をどこかから借りてきます。借金で風車を建設すれば、風が吹いて、その日から発電が始まります。発電してできた電力は、電力会社が買い取ってくれます。
私はそれを眺めているだけです。
 一年間にどのくらいの電力を作ってくれるのでしょうか?それも知りませんが、計算しやすいように500万円ということにしましょう。そうなれば、借金の利息も含めて12年くらいで元が取れます。その後は返す借金もなくなり、風車は私だけのために発電をしてくれます。仕事というものから解放された私は、ふもとからそれを眺めながら、旅行に行ったり釣りをしたり。のんびりした生活、スローライフを送ることができるようになります。ああ、なんて素晴らしい・・・

まあ高校生の頃の妄想です。子供の考えることなので許してください。
 そんな事を思い出しながら現在の生活を眺めると、その頃の考えとあまりにもかけ離れていることに苦笑してしまいます。予想していた通り、研修医は結構忙しいです。病棟での仕事はもちろん、手技の練習をしたり、勉強をしたり、飲みに行ったり、とても美味しいものや辛いものを食べさせてもらったりするからです。
そして忙しいのは研修医だけではありません。上の先生方はもっと忙しそうに見えます。ということは、私も今後数十年は忙しいということになります。

一体どこで間違えたのでしょうか?私の風車の夢はどこに行ったのでしょうか?



最近買った救急医療の教科書である「問題解決型救急初期検査」という本の巻頭には、こんな言葉が書かれています。

 「この本を、日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」

 私はまだまだ戦士ではありません。戦士と呼ばれるには、あまりにも戦力として小さすぎます。しかしきちんと努力して、医師としての実力を身につけたいと考えています。医療現場の最前線で、戦える医師になりたいと思っています。
 そして、数年後にはこんな風にうそぶきます。

「スローライフ?そんな生活も悪くないかもしれないね。」

・・・・さようなら、私の風車。
一年目研修医 太田でした。

研修医1年目 太田 圭一